成功者から学ぶ~栄光と苦悩、天国と地獄~

NBA2011年シーズンに最も大きなインパクトを残した選手 Derrick Rose (デリック・ローズ)

彼が22歳6か月という若さでNBA史上最年少のMVPに輝いた栄光を、NBAファン達はつい数年前まで忘れていました。

これは栄光と苦悩、天国と地獄を経験した稀代のスーパースターのお話です。

 

2008年ドラフト1位で 名門 シカゴ・ブルズに指名されNBA入りしたローズはルーキーイヤーから凄まじい活躍をし、NBAの最年少記録を次々と塗り替えていきました。
ブルズにとってはマイケルジョーダン以来のスーパースターが現れたということで、地元も一段と盛り上がっていました。

ローズのプレイスタイルを一言で表すのなら、“人間性能のゴリ押し” 
常人離れしたスピードから豪快なダンクまでなんでもアリで、思いつくスーパープレーは全部やってのけるような選手でした。
モンスター級の超人がひしめくNBAの中ですら、人間性能が違いすぎると言わざるを得ないレベルでした。

デビューから3年目には22歳という若さで史上最年少MVPを受賞。
ローズはNBAでの将来を約束された選手、のはずでした。

そう・・・あの事故が起きるまでは。

 

MVPに輝いた翌年もローズの大活躍によりブルズはプレーオフへ進出。
フィラデルフィアとの一回戦、残り1分20秒のところでパスを受けたローズが強引にゴール下に切り込んだその時、彼は倒れ込み動けなくなりました。

精密検査の結果、左ひざ前十字靭帯断裂と診断されたのです。

選手生命を断ち切るには十分な大ケガでした。

 

しかし、懸命なリハビリを続けたローズは2年後の2014年シーズンに奇跡的な復帰を果たします。
若干のブランクを感じるものの、かつてのローズと遜色ないプレーで、ファンは彼の復活を心から喜びました。

そんな喜びもつかの間、ローズはまたしても地獄を味わう事になります。

それは、奇跡的な復帰から1か月後の11月22日。
相手選手との接触にバランスを崩して転倒した際に右ひざ半月板断裂という重傷を負ってしまいます。
地獄のようなリハビリから2年、やっとの思いで復帰したローズはわずか10試合にだけ出場し、両ひざに爆弾を抱えてしまうのです。

そして、このケガを境にNBAファンは最年少MVPの存在を少しずつ忘れていくのです。

 

時は流れ2017年シーズン、諦めずにリハビリを続けたローズはNBAに帰ってきていました。

が、そこに彼の居場所はありません。
ブルズからも放出され、かつてのMVPの市場価値は故障しがちな選手としてしか扱われず、弱小チームの客寄せパンダ的に短期間に移籍を繰り返しました。

メディアやSNSでは度々「落ちぶれた”元スーパースター”」、「退化してしまった」などと言われ
稀代のスーパースターは、もうあの頃の輝きを取り戻すことは出来ないと思われていました。

 

『Basketball won’t let me go—”バスケットボールが僕を離さないんだ”— Derrick Rose』

かつての恩師、トム・シボドーがコーチをしているミネソタに移籍したローズは、スタメンを支えるベンチ要因。
まわりの若い選手にタオルを配り、たまに訪れる途中出場の機会には、地味ながらもしっかりと自分の仕事をこなしていました。

 

そんな”元スーパースター”が一夜だけ、その輝きを取り戻します。

2018年10月31日、キャリアハイの50得点を記録

その試合は私も録画をしてみたのですが、とても感動的でした。

 

鮮烈のデビューから10年、最年少MVPから7年、度重なる大ケガに見舞われながらも掴んだその場所で、彼は再びスーパースターになったのです。

30歳を迎えた彼は、地味に泥臭く、得点を重ねていきました。

そのプレイングは、かつてのローズとは思えないほどに変わっていました。
爆発力や瞬発力に頼ったプレーはなく、ベテラン特有の狡猾さと老獪さを武器に相手ディフェンスをゆっくりとしなやかに躱していきます。

派手なダンクもドリブルもありません、ただひとつひとつのジャンプシュートを的確に沈めていきます。
まさに“職人”という言葉がふさわしいプレーでした。

私達がかつて興奮し、熱狂したローズとは違いますが、紛れもなくローズがそこには居て
ケガによって4年もの間NBAを離れた彼が、失った居場所を取り戻した瞬間でした。

この活躍を見た全てのメディア、ファンは、彼が衰えたのではなく「進化」をしたと思ったことでしょう。
フィジカルの強いプレースタイルからベテランの味を活かしたプレースタイルへと「進化」したのです。

その証拠に、彼は全盛期でも達成する事の出来なかった50得点を、30歳のこの時にたたき出したのです。

 

試合は勿論勝利、終了のブザーとともに観客からはローズへのMVPコールが鳴りやみません。

そして、ローズの目には大粒の涙があふれていました。

 

涙ながらに応じた試合後のインタビューでは、医師にバスケット選手として再起するのは無理だろうと言われていたことそれでもあきらめずに毎日鍛えてきたということを話していました。

 

メディアではローズの名前にちなんで
「The sun rises again, The Roses bloom again—陽はまた昇る、バラの花も再び咲く」
と彼の雄姿が多くの人を勇気づけるものだったと賞賛しました。

 

2019年、栄光と苦悩、天国と地獄を知ったローズは、活躍の場をデトロイトに移し
今も「進化」をし続けています。

 

『All the days that you wake up, You got one job, and thats to get better every single day.—”毎日起きたら、やることはひとつだけ。日々成長し続けることだ。”— Derrick Rose』

この記事を書いた人

M.Sugimoto

artbizのサービスチーフ。幾多のアルバイト武者修行の経験があり、話題をふれば「あー、あの業界はですね」と現場の裏側を大体知っている。次から次へとやってくる業務に押しつぶされそうになりながらも、日々artbizのサービスとお客様対応の品質向上に熱意を注いでいる。NBA(プロバスケ)観戦が趣味と。